高校を卒業し、一人暮らしを始めることにした。
・・・・・・そう、一人暮らし。決して、今目の前におるヤツと同棲する、なんてことはない。
それなのに。
「結構片付いたね。」
「お前さんが手伝ってくれたおかげじゃな。」
「あ、いや、そういうつもりで言ったわけじゃなくてっ。」
わざわざ引っ越し当日に手伝いに来てくれた。
これは脈あり・・・・・・ということではない。
「わかっちょる。ここらで一息つくか。・・・・・・話したいこともあるんじゃろ?」
「あ、バレてた?」
「何年の付き合いになると思っとるんじゃ。」
「ありがと。」
そう言うと、は飲み物と菓子類の入った袋を持ち、テーブルの方へ向かった。
「ここじゃ埃が舞っとるかもしれん。こっちの部屋にせんか?」
「それもそうだね。」
もちろん俺のこの発言に他意は無い。
それでも、何の警戒心も無く、寝室になる予定――つまり、ベッドの置かれた部屋へ進路を変えたもどうかと思う。
・・・・・・ま、それだけ意識されとらんってだけじゃが。
そんなことは、こうして二人きりで作業していた時から・・・・・・いや、もっと前から、わかっている。
「こっち開けるよ?」
「おう、ありがとな。ちゃんと、こういう物も準備してある辺り、さすがは元マネージャーと言ったところか。」
「いやいや、これぐらい普通でしょ。・・・・・・はい、どうぞ。」
そう言いながら、はジュースを紙コップに注ぎ、俺に渡してくれた。
「サンキュ。」
「・・・・・・よし。それじゃ、引っ越しのお祝いに・・・・・・カンパーイ!」
「乾杯。」
は、無理をして楽しそうに振る舞っている。
それがわかって思わず出そうになる溜め息も、コップの中身と共に飲み込んだ。
・・・・・・さて。どう切り出すものか。
「これから仁王は一人暮らしかー。」
結局、先にが話し出した。
・・・・・・まあ、の話したいようにさせるんが一番か。
「はせんのか?」
「私は結構、大学近い方だしね。仁王はちょっと遠かったもんね?」
「その分、中高は近い方やと思うよ。」
「大学は誰が一番近いんだろう?」
「たしか・・・・・・丸井とジャッカルは中高に近かったはずぜよ。特に丸井は、中学に近かったんじゃなかったかのう。」
「幸村は大学寄りだったね。・・・・・・でも、私の方が近いかも?」
「真田と柳は中高寄りじゃったか。」
「そういえば、赤也は『大学生になったら、もっと寝れるのに!』って言ってたことなかった?」
「言っとったな。じゃあ、アイツが一番近いんかもな。・・・・・・まあ、赤也の場合、大学に合格できるかが問題じゃが。」
「ハハ、そうかもね。いつか、勉強教えに行ってみる?」
「ものすごく嫌がっとる顔が目に浮かぶ。」
「たしかに!」
楽しそうに笑った後、が少し息をついた。
・・・・・・ついに来たか。
「・・・・・・でも、柳生も大学に近いんだよね?」
「そうじゃな。」
「じゃあ、学部は違っても、通学中に会うことも多いかもね。」
それは柳生に限った話ではない。それなのに、柳生だけを挙げたのは・・・・・・もう会いたくないからか。それとも、まだ・・・・・・?
「通学中はな。学部が違えば、意外と学内では会わんかもしれん。」
「そんなものかな・・・・・・。」
「広いからのう。」
「そう・・・・・・だね。」
そして、はひきつった笑顔を浮かべた。
「あのさ、仁王!実は柳生に振られたんだ!」
「・・・・・・そうか。」
「うん、ごめんね!せっかく今まで相談聞いてもらってたのに。」
「気にしなさんな。」
「それでね、柳生ったら、友達としては好意がある、とか言っちゃってねー。だから、大学で会ったら、これまで通りに振る舞うんがいいんだろうけどさ〜。そんなの、難しいと思わない?」
「・・・・・・だろうな。」
「ね?本当、柳生って優しいけど、そういうところ気が利かないって言うか・・・・・・馬鹿みたいに優しいって言うか・・・・・・あー、本当・・・・・・。」
そこまで言うと、の目から涙がこぼれた。もう我慢はできなくなったようだ。
でも、自然に出た次のの表情は、笑顔だった。無理をしている様子の無い、ごく自然な笑顔。
「本当・・・・・・好きだったなー・・・・・・。」
涙と笑顔。相反するような表情。だからこそ、の言葉が、思いが、突き刺さる。
・・・・・・本当に好きじゃったんだな。
「でも、仁王が言った通り、大学でそんなに頻繁には会わないかもしれないし。きっと大丈夫だよね!それに、大学でもっといい人とか見つかるかもしれないもんね!」
「・・・・・・ああ、そうじゃな。」
「いい人いたら、仁王も紹介してよ?」
また、わざと明るく振る舞い始めた。
今更俺に気を遣うな、と少し腹が立った。
「・・・・・・いい人じゃなかったら、今すぐ紹介してやるけどな。」
「えぇ?いい人じゃないと困るよ〜。」
「ほら、目の前におるじゃろ。」
「・・・・・・何言ってんの。仁王はいい人だよ。」
理性では、にとって理不尽なことでしかないとわかっている。それでも、俺の感情は怒りに支配されていく。
が俺をいい人と言うのは、俺が相談を聞いてやっていたからか?に優しくしていたからか?
そんなもの、下心があったからに過ぎない。
「こんなことをされても、か?」
そう言いながら、俺は唇が触れそうになるほど、に近づいた。
の顎に手を添え、少しこちらに向けさせたが、は一瞬驚いただけで、すぐ笑顔に戻る。
「ありがとう、励ましてくれて。」
「ちょうど、ここにはベッドもあることじゃし、何なら体も慰めてやろうか?」
「そこまでして、いい人になりたくないの?私に紹介するのが、そんなに嫌?」
「そういうわけじゃ・・・・・・。」
が今度は寂しそうに笑い、思わず手を離した。
顔を逸らしていると、がクスリと笑うのが聞こえ、恐る恐る視線を戻した。
「やっぱり仁王は優しいね。」
・・・・・・ああ、本当敵わん。
俺だって男だ。惚れた女を物にできるなら、そうしたいという欲望はある。
けど、それ以上に、好きな人を悲しませるようなことはしたくなかった。
「だから、仁王にならいいかな、ってちょっと思っちゃった。よく考えたら、いや、よく考えなくても、仁王は優しいし、かっこいいし。」
「そういうことは、俺に本気になってから言いんさい。」
今までは柳生のことしか、目に入ってなかったんだろう。それが、ここまで考えてくれるようになった。
今はそれでいい。
俺だって、の同意を得てから、いや、いっそも望むようになってから、関係を進めたい。
「はーい。じゃあ、あらためて・・・・・・。私の再出発と、仁王の一人暮らしスタートに、乾杯!」
「乾杯。」
いつかが俺を選んでくれるよう密かに願いながら、静かにコップを合わせた。
何かのタイミングでやってくる、T.M.Revolutionさんの歌影響シリーズ!(笑)
きっと『Burnin X'mas』が好きなんですね、私(笑)。
そういえば、T.M.Revolutionさん、20周年なんですよね!おめでとうございます!(←何の話だ)
ちゃんと仁王夢の話をしましょう(苦笑)。
以前は、切原くん→ヒロイン→仁王さんってのを書きました。そして、次は仁王さん→ヒロイン→柳生さん。
・・・じゃあ、次は柳生さん→ヒロイン→○○○??いや、そんなつもりは一切無かったんですけど・・・ちょっと考えてみます(笑)。
('16/06/27)